愛知県は食材の宝庫。三河湾、伊勢湾、太平洋に面して新鮮な魚介には事欠かず。奥三河など山深い地域もあり山の幸も豊富。豊かな土壌を活かして実は全国でも有数の農業県でもあり。さらに醸造文化が発達し、味つけに欠かせない調味料もご当地産が多種多彩。そんな愛知の土地の恵みを一度に味わえるのが鍋料理です。地場産食材オールスターズともいうべき鍋を囲んで、愛知の食文化の多彩さを一箸一箸味わってみて下さい。
※2016年12月現在の情報です。最新の情報につきましては各店舗にお問い合わせください。
愛知が誇るごちそう食材が名古屋コーチン。明治初期に旧尾張藩士の海部壮平・正秀兄弟が開発した元祖・地鶏です。戦後、外国種に押されて絶滅寸前にまで激減していましたが、農業関係者らの努力によって昭和50年代後半に奇跡的に復活を果たしました。
この本格供給が始まる以前から、名古屋コーチン専門店として普及に努めてきたのがここ。一部の養鶏業者によって細々と生産されていたコーチンを仕入れて、名古屋の伝統的味覚を守ってきました。
新鮮な朝挽きのコーチンのみを使い、刺身や串焼き、手羽先唐揚げなど調理法は多彩。中でも外せないのは鍋。弾力のある噛みごたえからうまみがにじみ出る、“かしわ”本来の醍醐味を堪能できます。
名古屋らしい味噌仕立てがおすすめですが、よりシンプルにコーチンのうまみを味わえる水炊きもあり。お好みでいずれかの味をお選びください。
かしわの味噌鍋、通称・楽鍋はは昭和6年に「料亭香楽」として創業して以来の名物。もも、むね、手羽、肝、砂肝、心臓の各部位を年季の入った鋳物の鍋でぐつぐつ。八丁味噌仕立てのスープの香りが湯気と共に立ち上り、食欲をそそります。女将さんや仲居さんが調理してくれるのもポイント。それぞれの部位を最もおいしいタイミングで取り分けてくれるので、ふっくらとしたジューシーさ、ぷりっとした弾力が存分に味わえます。
独自に調合した味噌ダレは茶色というより黒に近く、見た目は辛そうですが口に運ぶとまろやかな甘みが。それでいて決してしつこくはなく、最後まで食べ飽きません。
〆はきしめん。味噌の風味と、鶏のダシをたっぷり吸ったスープが平打ちの麺によくからみ、鍋のおいしさを最後にあらためて実感できます。
繁華街・錦3丁目のど真ん中にありながら、小さな看板だけを掲げた和風の建物はまさに都心の穴場。大切な人をおもてなしするにもうってつけです。
名古屋人好みのかしわを八丁味噌仕立てのダシで味わえるみそすき。鶏ガラのダシに八丁味噌をとき、肉に味噌の風味が適度にしみ込んだところで、とき卵につけていただきます。味噌の濃厚な甘辛さが卵につけることでまろやかになります。鶏肉は三河産の赤鶏。柔らかくも歯切れがよく、ほどよい甘みがこれまた味噌とよく合います。
特に絶品はつなぎなしでつくるつくね。3人前以上でないとつかないので、グループで注文することをお薦めします。
うなぎ料理もかしわと並ぶ看板で、鍋料理のしめくくりにひつまぶしがつくコースも。明治32年創業の老舗で、名古屋の贅沢グルメを満喫してください。
味噌煮込みうどんの代名詞とも言うべき専門店。名古屋人なら知らない人はいないほどの有名店ですが、もつ鍋の存在は知らない人の方が多いんじゃないでしょうか。
そんな知る人ぞ知る隠れ名物が味噌漬け国産牛ホルモンもつ鍋。豆味噌仕立てのもつ鍋は、本場・九州にもないこの店のオリジナル。新鮮なもつはぷりぷりとろとろで、その中から味噌のコクがじゅわっと出てきます。〆はもちろんうどん。麺は味噌煮込うどんと同じもので、山本屋本店の生麺を見られるというのも貴重な機会です。これを鍋に投入すると、もつのうまみがとけ込んだ味噌のダシが麺にしみ込み、いつも食べ慣れている味噌煮込みうどん以上に深いコクを味わえます。もつ鍋の他にも、コーチン鍋、かごしま黒豚ロース鍋も選べます。
単品でも注文できますが、お得なのは事前予約制のコース。+200円台~でおつまみなどが付き、会食にもお薦めです。
山深い奥三河地方は県内で最も狩猟が盛んな地域。特に猪肉のぼたん鍋は古くから地域の味として親しまれてきました。狩猟で獲れた野禽の肉(=ジビエ)の食肉加工業を今から10年前に県内でいち早く創業したのが三河猪家。名代和食ししやはその直営店として、多彩な猪鍋料理を提供しています。
ぼたん鍋は名前の通り鮮やかな赤身の猪肉が主役。噛みごたえがあり、淡白ながら木の実を感じさせる甘みを感じられます。味噌仕立てのダシは八丁味噌と西京味噌のブレンドで、まろやかなコクが猪肉の滋味を引き立てます。
他にもしし焼肉やししハンバーグ、ししまぶしなどバラエティに富んだしし肉料理があり、、定食は1000円台で気軽に食べられます。さらに隣のショップでは猪肉のウインナーやハム、メンチカツなども販売しています。
愛知県では年間7000~8000頭の猪が捕獲されていますが、食肉として一般に流通しているのはごく一部で、生産量県内一の三河猪家でも扱う頭数は年間約300ほどなのだそう。貴重な奥三河の食材である猪肉を、山々に囲まれた豊かな自然の中で味わいたいものです。
<プロフィール>
名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する名古屋在住のフリーライター。
雑誌、新聞、Webなどに名古屋情報を発信。著書は『名古屋の商店街』『名古屋めし』『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』など。コンクリート仏師、浅野祥雲の“日本唯一の研究家”として作品の修復活動にも取り組んでいる。