祝「令和」! 万葉人のこころに触れる あいちの万葉歌碑巡り

Column.35

祝「令和」! 万葉人のこころに触れる あいちの万葉歌碑巡り

なんと「あいち」も「万葉集」典拠

新元号「令和」に湧く日本列島!その典拠となった万葉集が、いま注目を浴びています。
万葉集は、日本の詩歌の原点であり、古代の人たちの神観念や自然観、情愛などが詠みこまれている素晴らしい歌集です。男性も女性も、天皇も罪人も同じくひとつの歌集の中にあり、その歌々はとてもおおらか。今読み返してみても共感させられるのは、そこに喜び、悲しみ、憂い…私たちと同じ心の有様が表現されているからでしょう。
愛知県には名古屋市をはじめ、伊良湖岬、篠島、蒲郡、豊川など万葉集の舞台になった場所があります。ぜひその地に立ち、歌を味わってみてください。目の前の景色は、当時とは全く違うでしょうが、それを想像するのはとても楽しいものです。

令和

<名古屋市>「あいちの由来」桜八幡社の万葉歌碑

桜八幡社の万葉歌碑

実は、万葉集と浅からぬ縁のある「愛知県」。なんと「あいち」の地名の由来も万葉集がもとになっているのです。
その歌とはこちら。高市連黒人(たけちのむらじくろひと)の詠んだ

「桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟(あゆちがた)潮干にけらし鶴鳴き渡る」(万葉集巻三)

(桜田の方へ鶴が鳴いて飛んでいく。年魚市潟は潮が引いたらしい。鶴が鳴いて飛んでいく)
という一首です。この中の「年魚市潟」とは、名古屋市熱田区、南区の当時海岸であった一帯を指しています。そう、この「あゆち」が「あいち」に転じたというわけですね。廃藩置県後、県庁が愛知郡の名古屋城内に置かれたところから、県名に採用されました。

この歌碑があるのは、名古屋市南区呼続町、笠寺台地の中央部にある桜八幡社。この辺りは古代、あゆち潟と呼ばれる遠浅の海に囲まれた地で、松巨島(まつこしま)と呼ばれていたのだとか。松巨島というのは、松が生い茂る大きな島ということ。「松島や~」ではありませんが、かつては歌に詠みたくなるほどの景勝地であったのでしょう。

大正7年(1918年)には、境内で貝塚(桜田貝塚)が見つかり、弥生時代後期と見られる土器やハマグリ、アサリ、カキなどの貝殻などがたくさん出土しています。今では海も遠くなり、かつての景色を想像するのも難しいですが、確かにここに「鶴がひと鳴きしながら干潟を飛んでいく」ような、のどかな風景が広がっていたのだと思うと、感慨深いですね。そして、それが万葉集を通じて古代人の心とともに感じられるというのが、またいいじゃありませんか。

★周辺スポット:笠寺観音(笠覆寺)
笠覆寺は笠寺観音という名前でもよく知られている古寺です。龍泉寺や荒子観音、甚目寺などと並んで、徳川家康が名古屋城築城にあたって鬼門の方角にある寺院を鎮護とした尾張四観音の一つに数えられています。創建は天平5年(733年)という古寺で、地域の人から厚い信仰を集めています。

【住所】〒457-0051 名古屋市南区笠寺町上新町83
 >>https://www.aichi-now.jp/spots/detail/198/





笠寺観音

<田原市>伊良湖岬の万葉の歌碑

<田原市>伊良湖岬の万葉の歌碑

岬の先端、灯台背後の古山斜面に建てられているのがこちら。

「うつせみの命を惜しみ浪にぬれ伊良湖の島の玉藻刈り食す」(万葉集巻一)

(本当に私は命が惜しくて、波に濡れながら伊良湖の島で藻を刈って食べている)
これは流罪となった麻続王が海で詠んだ歌のような形になっていますが、現在の研究では、作者は不詳とされています。
この解釈は同じく作者不詳の

「打麻(うちそ)を麻続王(をみのおほきみ)海人(あま)なれや伊良虞の島の玉藻(たまも)刈ります」

という歌とのセットで詠むと分かりやすいのですが、
島人A「麻続王は海人なのか」
島人B「いや海人でもないのに伊良湖の島の藻を刈っていらっしゃるのだ」
島人A「なんとおいたわしい」…
と、人々が憐れんでいるのを詠んだ歌に対して、(麻続王の気持ちになって)返歌として詠まれています。皇族の身でありながら、誇りを捨て生きるために波に揺れ、藻を刈っている…その様子、潮風に当たりながら、ぜひ想像してみてください。あきらめ、悲しみ、自虐、達観ともつかない、なんとも言えない感情の交わりを作者とともに感じることができるでしょう。

  • <田原市>伊良湖岬の万葉の歌碑
  • <田原市>伊良湖岬の万葉の歌碑

★周辺スポット:恋路ヶ浜
伊良湖岬灯台から日出の石門まで太平洋沿いに約1km、そこには荒波をうけて湾曲した白く美しい砂浜が。「恋路ヶ浜」というロマンチックな名の付いたこの浜は、「最近の名称?」と思われがちですが、実はその歴史は古く、江戸時代につくられた和歌にも詠われています。その昔、高貴な身分の大序が許されぬ恋に落ち、都を追放されてこの地に逃れてきた伝説からこの名が付いたともいわれています。島崎藤村の抒情詩「椰子の実」の舞台となったことでも有名で、浜にたたずむと、「名も知らぬ 遠き島より 流れよる 椰子の実ひとつ」と、ついフレーズを口ずさんでしまいます。その名前ゆえに、「願いのかなう鍵」や「永遠の愛を誓う鐘」などがあり、プロポーズにふさわしい場所として伊良湖岬灯台とともに“恋人の聖地”と呼ばれ、デートスポットとして人気があります。

【住所】〒441-3503 田原市伊良湖町恋路浦
 >>https://www.aichi-now.jp/spots/detail/187/



恋路ヶ浜

<豊川市>三河総社の万葉歌碑

三河総社の万葉歌碑

三河国内神名帳の59社の神霊を祀ったのがこの三河総社。この神社の前にあるのがこちら。

「妹も我れも 一つなれかも 三河なる 二見の道ゆ 別れかねつ」(万葉集巻三)

(私と貴女は一体だからでしょうか、三河国の二見の道からなかなか別れることができないのは)
東海道を東に行くと、豊川市御油町追分の交差点で道は二つに分れます。万葉の頃もおそらくここでふたつに分かれていたのでしょう。持統天皇の三河行幸に随行していた高市連黒人が現地でねんごろになった女性に対して詠んだものです。
さすが黒人さん、数字「一つ、二見、三河」を入れて言葉遊びをなさっています。軽やかですね。でも、万葉集に載っていない女性の答礼の歌も読むと、この歌の奥行がぐんと広がって面白くなります。

「三河の 二見の道ゆ 別れなば 我が背も我れも 一人かも行かむ」

(三河国の二見の道で分かれたあとは、このさき貴方も私も一人で行くのでしょうか)
どのように解釈するかでまったく味わいが変わってきてしまう歌です。旅先で知り合った男女の別れ…さぁあなたはどう読みますか。

★周辺スポット:御油の松並木(赤坂~御油宿)
旧東海道「御油宿」と「赤坂宿」の間には、600mほどにわたり約300本の松の大木が並んでいます。慶長9(1604)年に徳川家康の命で植樹されたクロマツは国の天然記念物に指定されています。松並木に連なり、東海道五十三次35番目の宿場として栄えた「御油宿」の、かつて4軒の本陣が並んでいたという当時の面影を残す古い街並みが続いています。
「御油の松並木資料館」には、松並木の資料とともに、江戸時代の御油宿の街並みの復元模型や、広重の浮世絵版画、近世交通文書、旅装束など、100点をこえる貴重な資料が展示されています。

【住所】〒441-0211 県道374号線御油近辺
 >>https://www.aichi-now.jp/spots/detail/43/




御油の松並木(赤坂~御油宿)

<南知多町>篠島の万葉の丘・万葉歌碑公園

<南知多町>篠島の万葉の丘・万葉歌碑公園

愛知県の三河湾に浮かぶ小島・篠島。ここが、万葉集で「小竹島」と詠まれた島です。

「夢のみに 継ぎて見えつつ 小竹島の 磯越す波の しくしく思ほゆ」

(夢にばかり絶えず見えて、高島の磯を越す波のように、しきりにあの人のことが思われる)
しのじまと呼ばれていますが、「篠」は「小さい竹」の意味なので「小竹島=篠島」に納得。そして昔から「東海の松島」と呼ばれていただけあって、海岸線が起伏に富んでいる篠島の島ぶりはとても美しいのです。ここで絶対に見ていただきたいのが、この丘から見る夕日です。あかあかとした夕日が、松島を影絵のように映しながら沈んでいく様子はとても素晴らしく、きっと万葉人の心をも動かしたことでしょう。

  • <南知多町>篠島の万葉の丘・万葉歌碑公園
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★スポット情報:篠島
三河湾と伊勢湾の潮流が交じり合う場所として新鮮な海の幸が豊富に獲れます。中でも島の名物はフグ。山口県の下関と並ぶ水揚げ高を誇り、フグ料理を目当てに島へ渡る人も数多くいます。観光地としても申し分なく、特に島の西側からの夕陽が特に美しく、「日本の夕陽100選」に選ばれているほどです。もちろん「海水浴」「釣り」などたっぷり楽しめます。

【住所】〒470-3505 南知多町篠島
 >>https://www.aichi-now.jp/spots/detail/35/






篠島

<蒲郡市>西浦温泉の万葉の小径

<蒲郡市>西浦温泉の万葉の小径

アジサイで有名な西浦温泉の小山に整備されているのが「万葉の小径」。稲村神社までの約500mの遊歩道に万葉歌人が三河湾の美しさを詠んだ10基の歌碑が置かれています。途中には、海を眺められる絶景ポイント(朝日の輝く丘)があり、水平線に朝日がうかんでいるように見えます。

  • <蒲郡市>西浦温泉の万葉の小径
  • <蒲郡市>西浦温泉の万葉の小径

★周辺スポット:西浦温泉
蒲郡温泉郷のひとつで、西浦半島の先端に位置し、海岸線から続く急斜面に立ち並ぶオーシャンビューの大型旅館から海の全景が一望できる、風光明媚な温泉地。
古来からその景色の美しさはお墨付きで、万葉歌人もよく訪れていたと伝えられており、そうした歌人たちが詠んだ歌を集めた「万葉の小径」や「俳句の道」もあります。
アルカリ性単純泉や単純緑バトン泉、塩化物泉など多様な泉質を持つことが特色。穏やかな砂浜が隣接し、夏は海水浴を兼ねて訪れる観光客で賑わいます。

【住所】〒443-0105 蒲郡市西浦町
 >>https://www.aichi-now.jp/spots/detail/134/



西浦温泉

愛知にある万葉の地は、わかっているだけで12か所といわれています。実際にそこに立ってみると、詠み人の心境がわかってくるかもしれません。万葉の心をぜひ体感してみてください。