モノたちが語りかける世界のクルマ博物館

Story.09

モノたちが語りかける世界のクルマ博物館

トヨタ博物館長久手市

「トヨタ博物館」は「トヨタ」を冠していながらも、トヨタ車をあまり展示していない不思議な博物館。ここでは、モータリゼーションの歴史を動かしてきた国内外の140台もの車を展示しています。車好きな人はもちろん、特に車に興味がない人だって、美しすぎるデザインにときめくこと間違いなし!さあ、知れば知るほど面白いクルマたちに会いに来ませんか。

過去を振り返り未来を考えたい

1989年、自動車の歴史を紹介する施設としてオープンしたトヨタ博物館は、2019年の開館30周年を前に、展示の仕方を大幅にチェンジ。
当初、欧米諸国の車と日本の車とをフロアを分けて紹介していたが、昨年のリニューアルでは、社会と結びついた車の歴史を国内外の車種を問わず並べている。

そもそも「トヨタ車を特別扱いしない」との厳命のもと、自動車の進化を促した重要な車だけを展示しているので、トヨタ色はほとんどない、といっていい(トヨタ車をご覧になりたい人は、ぜひ豊田市のトヨタ会館へどうぞ)。

世界で初めてのガソリン自動車が誕生したのは1886年。そのころ日本ではどうだったかというと、荷物は大八車で人は駕籠で運ぶという暮らしから、ようやく人力車が開発された時代。博物館では、世界で初めてのガソリン自動車「ベンツパテントモトールヴァーゲン」の奥に、日本の人力車を置いており、そのころの海外との差も、とてもわかりやすく展示されている。

日本には1898年、フランスのパナール ルヴァッソールが入ってきたが、高価すぎてまったく売れず撤退。しかしその9年後には、日本人の手で国産自動車が作られたというから驚きだ。「なぜ作れたかというと、日本にはからくりの工芸の伝統があったからだと思うんですね。進んだ技術を咀嚼するだけの力があったということです。でも、そんな時代、ロールスロイスが工業の車を作っているわけで、世界と日本にはまだ工芸と工業の違いがあるんですよね」。

時代の要請によって変化する自動車の歴史

さらに驚くべきは、1900年代の自動車の黎明期に、もうすでに今と同じ「ガソリン」「蒸気」「電気」の動力を使った自動車が開発されていたこと。副館長の浜田真司さんは語る。「ハイブリッド車にしても1901年にポルシェが開発していて、自動車の技術って、実はほとんどすべて100年以上前にできているものなんです。その時代の要請に応じて、復活してくるという流れがある。歴史というのはただ過去の話ではなくて、つながっているなぁと最近特に思うんですよ」

例えば、電気自動車はスイッチひとつで動くため、当時も女性に人気だったが、そんなに動かせないうえに充電が大変だったので普及には至らなかったとか。この時代は結局、蒸気に軍配があがったが、それも時代の中でガソリンへと移り変わっていく。今度は、どうなるのだろう。
「みなさんは、いままさに時代の目撃者になる時代を生きています。将来、ガソリンを使わなくなったとしても、どんな音をしていたとかどんな動きをしていたのか、50年先の人が見られるような博物館にしていきたいと思っています」(浜田さん)。この時代、一歩先を行くのは、そして博物館に展示されるのは、いったいどこの車になるのだろう。

自動車の歴史の展示というと、単に技術力の進化を追うものとなってしまいがちだけれど、トヨタ博物館はそれにとどまらず、時代の変遷とそれによって変化していくありようまでを伝えている。
例えば、富裕層のおもちゃだった車は、「フォードモデルT」の登場によって大衆化に成功。徹底的なコストダウンをしながらも、給料は倍増したことによって、工員たちが裕福になり、中産階級が生まれ、それによってまちを変えていく。するとライバルとしてGMシボレーが登場。価格競争ではフォードに勝てないので、ランクアップして差別化を図る。フォードはコストダウンにこだわったが、裕福になった中産階級が今度はより良いものに目をつけるようになり、時代についていけなくなったフォードがシボレーに負けてしまう。うう、なんという皮肉…車の細部だけでなく、こういう時代の空気感、人によって生まれた歴史というのも、ぜひ感じてほしい。

お国柄や精神性もデザインに織り込んで

都市間レース、サーキットレースが誕生した1900年代の車から世界恐慌のあった1930年代までの車のコーナーも面白い。ドイツ車らしい堅剛さ、イギリス車らしいクラシック感、フランス車らしい洗練美、イタリア車らしい洒落っ気を随所に感じさせる。国民性が車のデザインに反映されており、見比べるのが実に楽しい!

そうそう、国民性といえば、エントランスに飾られているトヨダAA型(のレプリカ)にも注目だ。輸入車が8割を占めていた日本で、トヨタ創業者・豊田喜一郎は、最先端の流線形デザインだったクライスラーのエアフロ―を参考に「トヨダAA型」を完成させた。「灰桜(はいざくら)」という日本らしい色を採用したり、アシストグリップを京都の組紐にするなど、随所に日本を意識したデザインを施している。そこに世界を見据えた喜一郎の思いを見るようで心が震える。

ちょっと異色な展示を見つけた。宝飾デザインをしていたフランスのルネ・ラリックのカーマスコットのコレクションだ。ガラス細工のそれは、下部に電球を仕込んで、光らせることもできる。車の機能ではない装飾の部分には、作り手乗り手の思いが美しい造形となって表現されている。単なる金持ちの道楽とみるか?芸術性の追求と見るか?そこには、走り以外の美意識や精神性が込められているように思う。
(ルネ・ラリック カーマスコット展示室は2018年12月25日より閉鎖。2019年春より新館2階で再公開予定。)

次の50年のために

それにしても、博物館にはどれだけの車があるのだろう。「展示している車は140台で、収蔵車全部合わせると540台になります。新館4Fにも80台ほど置ける収蔵庫があり、企画展やクラシックカーフェスティバルなどのイベントに活用しています。
トヨタ博物館のイベントといえば、毎年春にモリコロパークで行われる「クラシックカー・フェスティバル」が有名だが、博物館に置かれているような歴史のある車が、このようなイベントで実際に動いているのを見ると感動する。「そうなんです、オブジェではなく、はしってこそ車。すべての車をいつでも走れる状態で展示する“動態展示”は、当館の特長で、7名の整備士がメンテナンスを日々行っているのですが、すべて終えると4年かかります。使うと減っていくものだから、交換していくとオリジナルを壊していくことにもなるし、でも動かさないわけにはいかないし、というジレンマを抱えつつ、そういう意味で4年はぎりぎりのラインですね」(浜田さん)。

この日々の整備も資料のひとつだ。昔の車両には整備要領書もパーツリストもない中、整備記録を残し、次世代へとつなげていく。
自動車の歴史、それは人々が歩んだ貴重な文化遺産。トヨタ博物館は、自動車の歴史を紡ぐ語り部として、未来へメッセージを残し続ける。

Spot Overview

1989年4月16日、トヨタ自動車株式会社創立50周年を記念してオープンした自動車の博物館です。本館では、自動車の誕生から発達、発展の歴史を、実車展示を主体にわかりやすく紹介しています。当時憧れた車が一堂に揃うとあってカーマニアにとって見逃せない場所となるでしょうし、車好きのお子さんにとってもワクワクの場所。新館(1999年オープン)では、日本のモータリゼーションの歴史を、生活文化との関連で捉え、車を当時の生活用品と併せて展示しています。こちらは、時代背景を懐かしく思い返すことができることでしょう。常設展に加えて企画展を年に数回開催し、自動車を、時代やテーマで切り取り紹介しています。このほかショップやカフェ、レストランもあるのでゆっくりくつろぐことができます。

トヨタ博物館

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